製品技術情報
8.軸受の内部すきま
内部すきまと規格値
軸受の内部すきま
内部すきまとは、軸受の外輪・内輪・玉との間の遊び量である。一般に内輪を固定して外輪を上下方向に動かした時の動き量をラジアル内部すきまと呼び、左右方向に動かした時の動き量をアキシアル内部すきまと呼ぶ。軸受の運転中における内部すきまは、その大きさにより音響・振動・発熱・疲れ寿命等の性能を左右する重要な要素である。
深溝玉軸受は、普通ラジアル内部すきまで表示されるが、実際のすきま測定では安定した測定値を得るために規定の荷重を加える。この時、軸受は弾性変形して真のすきまより大きくなるので、補正量を減じて真のすきまを求める。
小径軸受・ミニアチュア軸受のラジアル内部すきま
すきま 記号 | MC1 | MC2 | MC3 | MC4 | MC5 | MC6 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
すきま | 最小 | 0 | 3 | 5 | 8 | 13 | 20 |
最大 | 5 | 8 | 10 | 13 | 20 | 28 |
備考
- 標準的なすきまはMC3である。
- 測定すきまとして用いる場合、次表の補正量を加える。
すきま記号 | MC1 | MC2 | MC3 | MC4 | MC5 | MC6 |
---|---|---|---|---|---|---|
補正量 | 1 | 1 | 1 | 1 | 2 | 2 |
備考 測定荷重は次の通りである。
- ミニアチュア軸受の場合・・・2.5N(0.25kgf)
- 小径軸受の場合・・・4.4N(0.45kgf)
●一般深溝玉軸受のラジアル内部すきま
呼び内径 d(mm) | ラジアル内部すきま | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
を越え | 以下 | C2 | C0 | C3 | C4 | C5 |
2.5 | 6 | 0~7 | 2~13 | 8~23 | 14~29 | 20~37 |
6 | 10 | 0~7 | 2~13 | 8~23 | 14~29 | 20~37 |
10 | 18 | 0~9 | 3~18 | 11~25 | 18~33 | 25~45 |
18 | 24 | 0~10 | 5~20 | 13~28 | 20~36 | 28~48 |
24 | 30 | 1~11 | 5~20 | 13~28 | 23~41 | 30~53 |
30 | 40 | 1~11 | 6~20 | 15~33 | 28~46 | 40~64 |
40 | 50 | 1~11 | 6~23 | 18~36 | 30~51 | 45~73 |
50 | 65 | 1~15 | 8~28 | 23~43 | 38~61 | 55~90 |
65 | 80 | 1~15 | 10~30 | 25~51 | 46~71 | 65~105 |
80 | 100 | 1~18 | 12~36 | 30~58 | 53~84 | 75~120 |
呼び軸受 内径d(mm) | 測定荷重 | すきまの補正量(μm) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
C2 | C0 | C3 | C4 | C5 | ||||
を越え | 以下 | N (kgf) | 最小 | 最大 | 共通 | 共通 | 共通 | 共通 |
2.5 | 18 | 24.5(2.6) | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 |
18 | 50 | 49(5) | 4 | 5 | 6 | 6 | 6 | 6 |
50 | 80 | 147(15) | 6 | 8 | 8 | 9 | 9 | 9 |
備考
- 標準的なすきまはC0である。
- 測定すきまとして用いる場合は、上表の補正量を加える。
- C2のすきまの補正量のうち、最小は最小すきまに、最大は最大すきまに適用すること。
ラジアル内部すきまとアキシアル内部すきまの関係
アキシアル内部すきまは、玉径・内外輪軌道半径・ラジアル内部すきまの値によって決まります。取付後のアキシアル内部すきまを小さくしようとして、小さいラジアル内部すきまや大きなしめしろのはめあいを選定する事は危険である。
Δa≒2×(Δr×(ro+ri-Dw))0.5
Δa=アキシアル内部すきま(mm)
Δr=ラジアル内部すきま(mm)
Dw=玉径(mm)
ro=外輪軌道半径(mm)
ri=内輪軌道半径(mm)
軸受すきまの選定
理論的には軸受の運転中のすきまが僅かに負の時に最も寿命が長くなるが、これよりも少しでも負のすきまが大きくなると急激に寿命が低下する事も判っており、一般的には0よりも若干正側になるように初期すきまを選ぶ。ミニアチュア軸受・小径軸受ではMC3、一般軸受ではC0を選ぶ事が多い。
●ラジアル内部すきまの選定基準
使用条件 | 選定すきま |
---|---|
内外輪共にすきまばめ。アキシアル荷重が小さい。軸方向剛性が不要。予圧を与えずにすきまを小さくしたい。振動や音響を抑えたい。低速回転。 | MC1、MC2、C2 |
摩擦トルクを小さくしたい。アキシアル荷重は普通。軸方向剛性は普通。内輪は僅かなしまりばめで外輪はすきまばめ。中低速回転。 | MC3、MC4、C0 |
摩擦トルクを特に小さくしたい。アキシアル荷重が大きい。軸方向剛性を要する。重荷重や衝撃荷重でしめしろが必要。内輪が高温又は外輪が低温。軸のたわみが大きい。 | MC5、MC6、C3、C4、C5 |
ラジアル内部すきまと角すきまの関係
軸受の内部すきま
実際に軸受を使用する際には、荷重によるシャフトのたわみやハウジングの円筒度により、軸受はモーメント荷重を受ける事がある。このとき内外輪には角すきまと呼ぶ傾きが発生し、各々の軸受によって定まる許容角すきまを越えると、軌道と玉の間に異常応力が発生し高温やフレーキングの原因となる。
角すきまとは、内外輪のどちらか一方を固定し非固定側の軌道輪を左右に傾けた時に自由に傾き得る角度の事で、軸受中心点回りの傾き・・・θ1、最下部玉中心点回りの傾き・・・θ2とがある。θ2よりもθ1の方がかなり大きく装置の設計および軸受装着の時には角すきまの考慮が必要である。
θ1=2×tan-1(2×(Δr×(ro+ri-Dw))0.5/dm)
θ2=2×tan-1((Δr×(ro+ri-Dw))0.5/dm)
θ1=軸受中心の角すきま
θ2=最下部玉中心の角すきま
dm=ピッチ円直径(mm)、一般にdm=(D+d)/2
すきまの計算
(1)運転すきま:Δ
軸受を運転して温度一定状態で、荷重やはめあいによる弾性変形のあるすきまを運転すきまと呼ぶ。
Δ=Δ1-(δt+δf)+δw(mm)
(2)内外輪の温度差によるすきまの減少量:δt
一般の運転条件での各部の温度は玉が最も高く、次に内輪が高く、外輪が最も低い。玉の測定は困難で実用上、内輪の温度と同一と考える。
δt≒a×ΔT×Da(mm)
(3)はめあいによるすきまの減少量:δf
軸受を軸やハウジングにしめしろを持たせて取付けると、外輪は収縮し、内輪は膨脹するので軸受の内部すきまは減少する
δf=δfi+δfo=Δdb×d/db×((1-(do/d)2)/(1-(do/db)2))+ΔDa×Da/D×((1-(D/Dh)2)/(1-(Da/Dh)2))(mm)
(4)荷重によるすきまの増加量:δw
軸受に荷重が加わると弾性変形のために、内部すきまが増加する。
δw=C×((0.51×Fr)/(Z×cosα))(2/3)×(1/Dw)(2/3)(mm)
尚、この時の接触角αは次の式により求める。
cosαo/cosα=1+C/(2×m-1)×(Fa/(9.8×Z×Dw2×sinα))(2/3)
1-cosα0=Δr/(2×Dw×(2×m-1))
●記号の意味
ΔT=内外輪温度差(℃)、
一般にΔT=5~10℃
Da=外輪軌道径(mm)、
一般にDa=((4×D+d)/5)
Δdb=内輪の有効しめしろ(mm)
do=中空軸の内径(mm)、
中実軸の時do=0
ΔDa=外輪の有効しめしろ(mm)
db=内輪軌道径(mm)、
一般にdb=((D+4×d)/5)
d=呼び軸受内径(mm)
D=呼び軸受外径(mm)
Dh=ハウジング外径(mm)
Z=玉個数
Dw=玉直径(mm)
α=接触角(°)
αo=初期接触角(°)
Δr=ラジアル内部すきま(mm)
Fa=アキシアル荷重(N)
Fr=ラジアル荷重(N)
m=内外輪軌道溝曲率の平均(mm)
a=線膨張係数(1/℃)
軸受鋼:a=12.5×10-6
ステンレス鋼:a=10.1×10-6
C=接触弾性係数
用途区分 | C | m |
---|---|---|
一般軸受 | 0.00218 | 0.525 |
計器用軸受 | 0.00287 | 0.560 |
アキシアル荷重と軸方向変位、接触角の変化
玉軸受がアキシアル荷重を受けると、弾性変形のために軸方向に変位し、かつ接触角が初期接触角よりも大きくなる。
(1)アキシアル荷重:Fa
Fa=9.8×Z×sinα×Dw2×(cosα0/cosα-1)(3/2)×((2×m-Dw)/(C×Dw))(3/2)(N)
(2)軸方向変位:δa
δa=C/sinα×(1/Dw)(1/3)×(Fa/(Z×sinα))(2/3)(mm)
ラジアルすきまと軸受疲れ寿命
通常、寿命計算時のラジアルすきまはΔr=0で軸受内部の荷重分布が負荷率ε=0.5の状態である。これは荷重を受ける玉がほぼ半分であり、ラジアルすきまが変わると負荷率も変わり軸受疲れ寿命も変化する。
深溝玉軸受の場合、ラジアルすきまΔrと負荷率εは関数F(ε)との間に次の関係式が成り立つ。F(ε)と寿命比Lε/Lの関係からLεが求められる。
F(ε)=Δr×Dw(1/3)/(C×(Fr/Z)(2/3))
下図の例のように若干負のすきまで最大の寿命となる。またすきまが大きくなると負荷を受ける玉の数が減少するため寿命が短くなっていくことがわかる。
ε | 0.1 | 0.2 | 0.3 | 0.4 | 0.5 | 0.6 | 0.7 | 0.8 | 0.9 | 1 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
F(ε) | 33.7 | 10.2 | 4.05 | 1.41 | 0 | -0.86 | -1.44 | -1.86 | -2.2 | -2.49 |
Lε/L | 0.29 | 0.55 | 0.74 | 0.89 | 1 | 1.07 | 1.1 | 1.09 | 1.04 | 0.95 |
ε | 1.2 | 1.5 | 1.8 | 2 | 2.5 | 3 | 4 | 5 | 7 | 10 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
F(ε) | -3.1 | -3.88 | -4.6 | -5.05 | -6.11 | -7.09 | -8.87 | -10.5 | -13.3 | -17.2 |
Lε/L | 0.64 | 0.37 | 0.22 | 0.16 | 0.078 | 0.043 | 0.017 | 0.008 | 0.004 | 0.001 |